武雄市図書館・歴史資料館の現在の職員23名の配属先と関連考察(コストや地元書店への影響等)
4月からツタヤを経営するCCC社に運営が委託される佐賀県武雄市の「武雄市図書館・歴史資料館」。
委託費が年間1億1000万円になるという触れ込みで「コスト削減」と言われていますが、
以前の記事で書いたように、事業計画書では委託費に含まれている人件費は12名分のみであり、
現在の武雄市図書館・歴史資料館に勤務する23名の職員が、
4月からどのような配属になるのか、よくわかっていませんでした。
参考: 指定管理者制度を利用した武雄市図書館のCCC社への運営委託は
「コスト削減」にはなっていないと考えます
職員さんの雇用は本当に守られるのか、また「コスト削減」は本当なのかといった点を考察するため
武雄市図書館・歴史資料館に質問を送っていたのですが、それに対する回答を頂くことができたので、
記録として公開させていただきます。
対応して下さった武雄市図書館・歴史資料館および武雄市役所 文化・学習課に感謝いたします。
なお、「全て予定です」とのことですので、変更されることもありえます。
それを前提としてご覧下さい。
■23名の職員の今後
注意:CCC社に委託されるのは「図書館の運営と建物の施設管理」だけであり、
「歴史資料館の運営」は武雄市が直営で行うこととなります。
現在の職種 | 人数 | 4月からの雇用 | 備考 |
---|---|---|---|
館長 (嘱託職員) |
1名 | 武雄市(※1) | 図書館長と歴史資料館長を兼務 |
副館長 (学芸員) (市職員) |
1名 | 武雄市 文化・学習課 歴史資料館 | |
歴史資料係 (市職員) |
1名 | 武雄市 文化・学習課 歴史資料館 | |
歴史資料係 学芸員 (嘱託職員) |
2名 | 武雄市 文化・学習課 歴史資料館 | |
図書係 (市職員) |
2名 | 武雄市 | 他部署に配属予定 |
図書係 司書 (嘱託職員) |
8名 | CCC社 (契約社員) | |
6名 | CCC社 (契約社員) | 通常の司書業務に加え、 販売部門の選書、配架、 書評ポップづくり、ディスプレイ等も行う。 |
|
図書係 司書 (長期嘱託職員) |
1名 | 武雄市 文化・学習課 図書館担当 | |
日々雇用職員 | 1名 | CCC社 (臨時職員) | 主に返却本の回収、連絡、営繕等の 業務に当たる。 |
※1・・・事業計画書では、図書館運営委託費の1億1000万円の中に
館長の人件費も含まれていたので、CCC社の雇用になる気もするのですが、
回答では「武雄市の嘱託職員として採用予定」となっています。
兼務の場合の人件費について、どうなるのか正確なところは不明です
とりあえず、形はどうあれ全員が継続雇用されるのは何よりだと思います。
当初は学校に司書を配置するという話もありましたが、それはなくなったとのことです。
■CCC社についての考察
CCC社は、
・図書館運営委託費1億1000万円
・販売部門の利益
を財源として、
「館長(兼務)+15名+20名以上のスタッフ(販売部門アルバイト等も含む)」
を雇用することになります。
冒頭で述べたように、事業計画書によると、武雄市からの委託費には、
人件費は12名分の3241万円しか含まれていません。
CCC社は、それ以外の人員を販売部門の利益で雇用する形となります。
販売部門で利益が上がらなかった場合は、各種支出の引き締めや
スタッフの削減、運営委託費の増額交渉などが発生する可能性もあります。
また、事業計画書にあるとおり、CCC社は1億1000万円の委託費の中で、
5年かけて図書購入費を年間300万円増やす計画を立てています。
コスト捻出のために司書さんが少しずつ減らされたり、アルバイトに置き換えられていくといった、
サービス面を削るような動きがされなければよいのですが・・・。
また、「CCC社が利益を上げない限り運営が立ち行かない」ということを考えると、
武雄市側も、CCC社が利益を上げる方向に動くのを止められないのではないかと思います。
樋渡市長は2011年9月には自身のブログ記事で、
「図書館は、新刊本をタダで読める便利な本屋じゃありません。
小説など人気新刊本は、地元の本屋さんで買ってね。
図書館は本屋と相互補完関係にあるべき。」
「結局コスト高の図書館流通センターからの購入にもメスを入れる
(この場合、地元の本屋には1割以下の手数料しか入らない。)。
地元の本屋から100%直買いする方向で制度設計する。」
と言って地元書店に配慮を示していたのですが、CCC社への委託が議論された
2012年6月11日の市議会や7月18日の市議会では、
「新刊本は地元の書店で買ってほしい」とは言いつつも、
「レイアウトを工夫したりポップを置くといった工夫をして競争してほしい」
「図書館にできないようなサービスをやってほしいということを普通思うと思いますよ。
何で既得権益を保全しなきゃいけないんだということはやっぱり思いますよね。」
「一部の民業圧迫に、これは確かになるかもしれません。
しかし、次元が違います。そういった意味で、私は狭い既得権益よりも
広範な市民の価値を保全する立場にあなたと違って立っております。」
と、地元書店等に対し、図書館(蔦屋書店)との競争を求めるようになっています。
また、2012年9月議会に出された図面を見ると、図書館内の販売部門となる蔦屋書店には、
雑誌だけではなく、新刊本も置かれることになっています。
更に、今回の回答により、
「一部の司書は、販売部門(蔦屋書店)の選書、配架、
書評ポップづくり、ディスプレイ等も行う」
ということまで判明しました。
武雄市図書館・歴史資料館から道路1本挟んで向かいにある「ゆめタウン」という
ショッピングセンターの中には書店も入っているのですが、
「図書館という良い立地条件を確保した上に、
司書の支援まで得られる蔦屋書店」
と、どのように競争すればよいのでしょうね。
図書館の図書の購入についても、地元書店からの買い上げなどは無理でしょうし、
図書館流通センター(TRC)といったところから購入するのではなく、
蔦屋書店から購入するようなこともありえるのでしょうか?
図書館の図書購入の仕組みや権限は私もよくわかっていませんが、
6月11日の市議会では樋渡市長が
「CCCが決めることなので、我々がとやかく言う話ではないんですけれども」
と発言していますし、CCC社の利益を優先するとなった場合は、
蔦屋書店からの購入になることもありえるのかもしれません。
適正価格になるなら構わないかもしれませんが、注視していったほうがよいかと思います。
■武雄市についての考察
武雄市は、CCC社への運営委託費1億1000万円とは別に、
市の財源から、「館長(兼務)+7名の職員」を雇用することになります。
荒っぽくて全く当てにならない数字になりますが、委託費にある「12名で3241万円」という
数字をベースにして単純計算すると、7名分の人件費は1891万円となります。
7名の中には嘱託ではない市職員も4名おられますし、実際にはもっとかかるでしょう。
この人件費を、CCC社への運営委託費1億1000万円に足すと、
少なくとも1億3000万~1億4000万円くらいにはなるものと思われます。
(ただし2名は他部署に配属予定とのことですし、正確なところは要検証。)
これも以前の記事で述べましたが、武雄市のここ数年の実質的な図書館費は、
歴史資料館運営も含めて年間1億2000万円前後です。
それと比べると、4月からのCCC社への運営委託はコスト増加となります。
(ただし開館時間は増えます)
また、樋渡市長らは、
「年間の図書館費は平成24年度に予定していた1億4500万円」
だと主張し、そこからの1割削減をうたっているようです。
つまり1億3000万円ほどになるということですね。
しかし、上で書いたとおり武雄市が直接雇う職員さんの人件費を
CCC社への委託費に足しただけでも、1億3000万以上になるのではないでしょうか。
この他にも歴史資料館の各種運営費などもかかると思われますし、
市民への相談もせずにツタヤの有料CD/DVDレンタルコーナーにした「蘭学館」を
今後作られる新しい市庁舎に新設すれば、そちらの運営費も必要になるでしょう。
こういった部分も含め、トータルでコストを見ていく必要があります。
■まとめ
やはり以前の記事でも書いたように、開館時間が増えるとはいえ、
トータルとしては「コスト削減」にはならないものと思われます。
また、武雄市だけで4億5000万円もかけた改装費用は、
「年間運営費を削減するので、十数年もすれば改装費分は捻出できる」
と説明されてきましたが、上で述べた通り結局のところ「削減」にはならないと思いますし、
仮に年間1000万円ほど「削減」されたとしても、捻出には45年の時間が必要です。
コスト削減ができないとなると、改装費は実質的に丸ごと市民負担になるようなものであり、
その場合の金額は、1世帯あたり2万5000円以上となります。
繰り返しになりますが、武雄市図書館・歴史資料館は、2000年10月に完成したばかりの、
まだ綺麗で新しい図書館です。それにも関わらず、4億5000万円もの多額の改装費をかけて
中の本棚まで総入れ替えするような大規模な改装を行って店舗を誘致し、
どう考えても危険な巨大書架に蔵書を詰め込んで図書館の安全性や利便性を下げた挙句、
更には市民の長年の思いがこめられた蘭学館を、事前相談もなくツタヤの有料CD/DVDコーナーに改装。
最初から市民を無視した独りよがりな考えで計画が進められてきたのは明らかであり、
市民や反対議員への罵倒もありましたし、市民を騙まし討ちにするようなやり方もとられています。
私には、このような施政が民主的なものであるとは到底思えません。
指定管理者制度には、長期的な人材育成や知の蓄積が難しいなど、様々な問題も指摘されています。
新図書館が、かけるコストに見合った、市民にとって有益な公共施設になっていくのかどうか。
実態をしっかり見極め、厳しい目で長期的に見ていく必要があると思っています。
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